特別縁故者への相続財産分与の制度をご存知でしょうか?
この制度は、相続人がいない場合に、
- ①被相続人と生計を同じくしていた者
- ②被相続人の療養看護に努めた者
- ③被相続人と特別の縁故があった者
に対して、裁判所が相続財産を与えることができるというものです。
【民法第958条の2第1項】 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。 |
※前条の場合
期間内に相続人としての権利を主張する者、相続債権者及び受遺者がいないとき
※相続債権者
被相続人に対して債権を持っていた人のこと。【例】被相続人にお金を貸していた人。
※受遺者
遺言によって財産を受け取る人のこと。
特別縁故者への相続財産分与の申立は各年にばらつきはあるものの、少子高齢化・晩婚化・未婚率の上昇などが影響しているようで、この約25年間の推移をみると増加傾向にあり、今後も申立件数は増加していくと考えられています。
※
申立件数は、『司法統計年報(家事編)』を、未婚率は『国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」(2012年版)、「日本の世帯の将来推計(全国推計)(2013年3月推計)」より国土交通省作成』の【図表74 生涯未婚率の推移】を参照して作成しています。
※【図表74 生涯未婚率の推移】より
生涯未婚率とは、50歳時点で一度も結婚をしたことのない人の割合であり、2010年までは「人口統計資料集(2012年版)」、2015年以降は「日本の世帯の将来推計」より、45~49歳の未婚率と50~54歳の未婚率の平均である。
特別縁故者への相続財産分与の対象者
どのような方が特別縁故者への相続財産分与の対象者になるかは、事案によって様々ですが、当事務所では、
- 被相続人の内縁の妻《①被相続人と生計を同じくしていた者》
→相続財産の100%分与 - 被相続人の従兄弟《③被相続人と特別の縁故があった者》
→依頼者以外の特別縁故者2名あり→財産と不動産の一部を分与 - 被相続人の従兄弟《③被相続人と特別の縁故があった者》
→相続財産の100%分与 - 被相続人の甥姪の子(兄弟姉妹の孫)《③被相続人と特別の縁故があった者》
→相続財産の100%分与
といった方々の案件を取り扱ってきました。
個別の事案の紹介は機会がありましたら別途ご紹介しますので、今回は特別縁故者への相続財産分与の制度の流れをご紹介します。
特別縁故者への相続財産分与の手続き
01 相続財産清算人選任申立
特別縁故者への相続財産分与を申し立てるには、まず相続財産清算人(※1)が選任される必要があります。
特別縁故者は民法第952条第1項の利害関係人として、家庭裁判所に相続財産清算人選任申立を行います。
【民法第951条】 相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。 |
【民法第952条第1項】 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任しなければならない。 |
相続財産清算人選任の申立には、次のような資料を合わせて提出する必要があります。
- 被相続人の出生から死亡時までの全ての戸籍謄本など(相続人が存在しないことの証明)
- 申立人が利害関係人であることが分かる資料
- 被相続人の財産に関する資料
詳しくは裁判所のHPをご覧ください。
また、相続財産がある程度あれば、相続財産清算人への報酬は相続財産から支払われますが、相続財産が少ない場合は、申立人が報酬を支払わなければならないこともあります。
申立の内容が問題なければ、裁判所が相続財産清算人を選任します。基本的には弁護士が選任されます。
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令和5年4月1日の民法改正により、相続財産管理人から名称が変更になりました。過去の事例紹介の際に、相続財産管理人と出てきた場合は相続財産清算人のことと考えていただいて差し支えありません。
02 相続財産清算人への引き継ぎ
相続財産清算人が選任されると、裁判所から審判書の受取と相続財産清算人への引き継ぎの指示が出されます。
被相続人の預貯金口座の通帳・現金の引き渡しなどがよくある引き継ぎ作業になります。
その他にも、被相続人の葬儀費用を被相続人の財産から使用していた場合や電気、水道、ガス代の自動引落などの支払いの内訳の確認もあるので、事前に被相続人が亡くなった後の金銭の動きを把握しておくことが望ましいです。
その裏で、裁判所は民法第952条第2項規定の公告を行います。
【民法第952条第2項】 …相続財産の清算人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なく、その旨及び相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、六箇月を下ることができない。 |
砕けた言い方で解釈すると「相続人がいないから相続財産清算人を選任したけど、『ちゃんと調べられてないだけで私は相続人です』という人がいたら期限(公告から約6ヶ月頃まで)に言いに来てください。でないと相続する権利なくなりますよ。」という内容になります。
この期限(公告《官報》の内容)については、裁判所から相続財産清算人に連絡が行きますが、申立人には連絡が来ないこともあるので、相続財産清算人選任申立書の備考に「申立人は、●●(理由)から、特別縁故者の申立を検討している」と書いておき、相続財産清算人へきちんと事情を話しておくことで、期限を確認し、次の特別縁故者への相続財産分与の申立に備えておくことが大切です。 そして、裁判所が公告したと報告を受けた相続財産清算人が、民法第957条第1項規定の公告を行います。
【民法第957条第1項】 第九百五十二条第二項の公告があったときは、相続財産の清算人は、全ての相続債権者及び受遺者に対し、二箇月以上の期間を定めて、その期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、同項の規定により相続人が権利を主張すべき期間として家庭裁判所が公告した期間内に満了するものでなければならない。 |
砕けた言い方で解釈すると「相続財産清算人に選任されたけど、『被相続人に貸したお金を返してもらってない』とか『相続人じゃないけど遺言で財産をもらえることになっている』という人がいたら期限(公告から約2ヶ月頃まで)に言いに来てください。でないと相続財産(の一部)を受け取る権利なくなりますよ。」という内容になります。
03 特別縁故者への相続財産分与の申立
裁判所が公告した期限までに権利の主張をする人が現れなければ、その期限から3ヶ月以内に特別縁故者への相続財産分与の申立を行う必要があります。
【民法第958条の2第1項】 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。 【民法第958条の2第2項】 前項の請求は、第九百五十二条第二項の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。 |
特別縁故者への相続財産分与の申立を行うと、裁判所から相続財産清算人に分与の適否についての意見書の提出するよう要請が入ります。要請を受けた相続財産清算人は意見書を作成し提出します。
申立人が複数いる場合など、裁判所が必要と判断したときには、調査官による調査(面談や報告書の提出など)が行なわれることもあります。
相続財産清算人の意見書、調査官の調査報告書など必要な書類が出揃った時点で、裁判所から申立人に対して、通知書に記載の記録を元に特別縁故者への財産分与をするか(する場合は全部か一部か)を判断します、という趣旨の『事実の調査の通知書』が届きます。
この記録自体は申立人には送られず、別途、申立人が裁判所に対して閲覧または謄写の申請をする必要があり、謄写の費用は別途支払う必要があります。
記録に不足がある場合は、期限までに追加で主張することができますが、申立時に必要な主張・証拠を提出していれば、基本的に必要ありません。
相続財産清算人の意見書に「分与するのが相当」という内容があれば、ほぼ確実に裁判所も分与が相当と判断してくれます。後は裁判所の審判が出されるのを待つことになります。『事実の調査の通知書』に書かれている追加主張の期限から、審判までの期間に決まりはなく、案件や裁判所が扱っている業務量などによっては想定より待たされることもあります。
04 相続財産の引き渡し
審判で相続財産の分与が認められると、相続財産清算人が管理していた相続財産が引き渡されます。預貯金についてはこちらが振込先の口座を指定して振り込んでもらうことが多いです。
相続財産に不動産がある場合は、裁判所に『審判確定証明書』(150円)を発行してもらい、登記も行う必要があります。当事務所の場合は他士業とも提携しているので、司法書士に登記を依頼しスムーズに手続を進めることが可能です。
登記が完了したら相続財産清算人に報告し、引き渡し業務も完了となり、これで特別縁故者への相続財産分与の手続は全て完了となります。
まとめ
今回は、特別縁故者への相続財産分与の制度についてご紹介しました。
特別縁故者への相続財産分与の申立は、相続財産清算人の選任の申立もする必要があり、期間も確実に6ヶ月以上かかってしまうので、専門家の力なしで行うには大変な労力と心的負担がかかります。当事務所では初回相談無料となっておりますので、お困りのことがございましたら、まずは一度、当事務所までご相談ください。