相続で評価される療養看護の寄与分

療養看護型の寄与分とは

療養看護型の寄与分は、相続において重要な役割を果たす概念です。

そもそも、寄与分とは民法第904条の2に規定されており、被相続人の財産の維持や増加に特別に寄与した共同相続人がいる場合に、その貢献度合いに応じて相続分に反映させる制度です。具体的には、被相続人の事業に関する労務の提供や財産上の給付、そして今回のテーマである被相続人の療養看護などが対象となります。そのため、特に長期にわたって被相続人の介護を担ってきた方にとって、大切な制度となっています。

しかし、療養看護型の寄与分の認定には様々な課題もあります。介護の程度や期間、被相続人の状態など、多くの要素を総合的に判断する必要があるため、その評価は必ずしも容易ではありません。そのため、具体的にどのような場合に寄与分が認められるのか、裁判例を通じて見ていく必要があります。

まずは、療養看護型の寄与分が認められた代表的な審判例を紹介します。そして、そこから導き出される判断基準について詳しく解説します。実際に寄与分を主張する際の重要な指針となりますのでぜひご一読ください。

療養看護型の寄与分が認められた代表的な審判例

盛岡家庭裁判所・昭和61年4月11日審判の概要

療養看護型の寄与分について考える上で、盛岡家庭裁判所の昭和61年4月11日の審判を紹介します。この審判は、療養看護による寄与分の認定に関する基準を示した代表的な事例として知られています。

被相続人には、亡夫との間に6人の子ども(内1人は戦死)がいましたが、申立人以外は独立し、郷里を離れて生活していました。被相続人は、申立人が結婚した後も申立人家族(夫婦と子の3人)と同居して世話になりたいと考え、亡夫の退職金などを資金として土地を購入し、居宅を新築しました。そして、居宅が完成した昭和35年9月、被相続人は申立人家族と同居生活を開始しました。

その後、申立人は家賃の支払はしなかったものの、水道光熱費や家屋の修繕費などは負担していました。

そして、昭和46年ころから認知症の症状が特に重くなり、食事や用便も人の手を借りなければならない状態となり、四六時中被相続人から目が離せなくなっていました。さらに、夜間起き出して徘徊するようになってからは家族3人で不寝番をしなければならない状態になっていました。

《被相続人の認知症等の症状》

  • 目を離すと外出してバイパスへ飛び出す
  • 物が盗まれるなどという被害的言動が多くなる
  • 些細なことで興奮して家人に乱暴する
  • ガス栓を回す
  • ストーブの灯油を撒き散らす
  • 水道の水を出し放しにする
  • 布団に水をかける
  • 薬を一度に全部飲んでしまう

昭和56年4月に、申立人の夫が転勤のため単身赴任となり、子も県外の大学に進学したことで申立人が独りで看護せざるを得なくなったことで、病院で被相続人を診てもらったところ、自宅療養は無理があると診断され入院することになりました。入院から約5ヶ月後に被相続人が亡くなりました。

これらの認定事実から、裁判所は同居の全期間を寄与分の対象とはせず、被相続人の認知症の症状が特に重くなり、四六時中の介護が必要となった時点の昭和46年以降から死亡に至るまでの10年間を、親族間の扶養義務に基づく一般的な寄与の程度を遥かに超えたものとして「特別の寄与」と認めました。

「特別の寄与」の判断基準

盛岡家裁の審判から、「特別の寄与」の該当性について、被相続人の状態寄与行為の態様の両側面について詳細な事実認定を行っていることが分かります。

つまり、単に長期間介護を行ったというだけでは不十分で、被相続人がどのような状態であったか、そしてそれに対してどのような介護が行われたかが重要になります。

「身分関係において通常期待される程度を超える貢献」とは

「特別の寄与」として認められるためには、「身分関係において通常期待される程度を超える貢献」が必要です。これは、単に親の面倒を見たというだけでは不十分であり、通常の親子関係や夫婦関係で期待される程度を超えた介護が行われたことを意味します。

例えば、本来なら介護施設への入居や入院等が必要な状態であるにもかかわらず、自宅で献身的な看護を行ったような場合があります。介護施設への入居や入院等が必要な状態とは、要介護度2以上の状態であることが1つの目安となりますが、これだけで判断されるわけではありません。

被相続人の状態と寄与行為の態様の評価

被相続人の状態の評価には、医療記録や介護保険認定調査票などの客観的な資料が重要です。これらの資料を通じて、被相続人が職業的な援助を必要とする状態であったことを示す必要があります。

一方、寄与行為の態様については、相続人が行った療養看護の具体的な内容や程度を示す必要があります。この具体的に行った療養看護の内容が、第三者に有償で委任する程度の行為であったと認められれば、「特別の寄与」として寄与分が認められる可能性が高くなります。

続いて、最近の裁判例も確認して、現在の裁判所の判断傾向についても確認しておきましょう。

療養看護型の寄与分に関する最近の裁判例

寄与分が認められなかった事例(札幌高等裁判所・平成27年7月28日決定)

札幌高等裁判所の平成27年7月28日の決定は、被相続人が経営する事業に従事していたことを理由とする寄与分についての裁判例ですが、療養看護についての寄与についても僅かながらですが、言及があるのでご紹介します。

寄与分を主張していた被抗告人は、被相続人が膀胱と前立腺の全部摘出手術を行い、その後被相続人が死亡するまでの間、ストーマ用装具の交換等術後のケアに追われていたと主張していました。

しかし、裁判所はストーマ用装具交換の図によると、ストーマ用装具は被相続人がひとりで交換できたと考えられることなどを総合して、被相続人に対する療養看護について、被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与があったと認めることはできないと判断しました。

裁量的割合を用いた寄与分の算出(東京高等裁判所・平成29年9月22日決定)

療養看護型の寄与分は、本来は介護事業者に依頼し、費用を支払わなければいけなかった金額を、家族自らが無償で介護することで、被相続人の支出が減り、被相続人の財産の維持や増加につながることで認められます。

しかし、「扶養義務を負う家族が行った介護」と「資格を有している事業者の介護」とでは発生する報酬が違うと考えられるため、介護事業者に依頼していたら支払っていたであろう金額をそのまま寄与分としてしまうと公平性が損なわれてしまうため、裁量的割合を考慮することになります。

今回の裁判では、次のような理由も考慮して、裁量的割合は70%と判断されました。

抗告人は被相続人の子であって,抗告人がした介護等には,被相続人との身分関係に基づいて通常期待される部分も一定程度含まれていたとみるべきこと,抗告人は,被相続人所有の自宅に無償で居住し,その生活費は被相続人の預貯金で賄われていたこと,被相続人は,第三者による介護サービスも利用していたことからすれば,原審判が,第三者に介護を依頼した際に相当と認められる報酬額に裁量的割合として0.7を乗じて寄与分を算出したことが不当であるとはいえず,抗告人の主張は採用できない。

療養看護型の寄与分を主張するためのポイント

被相続人の状態の立証方法

療養看護型の寄与分を主張する際、被相続人の状態を客観的に示すことが極めて重要です。そのための効果的な立証方法として、以下のようなものが挙げられます。

  • 医療記録
    被相続人の病状や治療経過を示す医療機関の記録は、客観的な証拠として非常に有効です。特に、長期的な病状の変化や、医療的ケアの必要性を示す記録は重要です。
  • 介護保険認定調査票
    要介護度の認定結果や、認定調査の詳細な内容は、被相続人の日常生活動作(ADL)の状況を示す重要な証拠となります。
  • 親族やケアマネージャーの証言
    最も身近な存在である介護をしていた親族の証言は、被相続人の状態を知るための大切な情報です。ただし、介護の大変さから、実際よりも過剰に感じてしまっている部分もあるので、弁護士とヒアリングしながら客観的に正確にまとめていくことが大切です。また、介護保険サービスを利用していた場合、ケアマネージャーの証言は被相続人の状態や、実際の介護の状況を示す有力な証拠となります。

これらの証拠を組み合わせることで、被相続人が「介護を必要とする状態」であったことを示すことができます。特に、要介護度2以上の状態であることが分かれば、より認められやすくなります。

寄与行為の態様の立証方法

次に、自身が行った療養看護の具体的な内容や程度を示すことが重要です。以下のような方法が効果的です。

  • 介護日誌
    日々の介護内容を詳細に記録した介護日誌は、介護の実態を示す重要な証拠となります。特に、夜間の介護や医療的ケアの内容、頻度などを記録しておくことが大切です。
  • 介護用品の購入記録
    おむつや介護食品、介護用ベッドなどの購入記録は、介護の程度や継続性を示す証拠となります。購入費については、被相続人の年金や預貯金から支払っている例が多く、寄与分と認められた裁判例はあまりありませんが、記録に残しておくことで不当利得返還請求訴訟を起こされたときの対策にもなるので必ず残しておきましょう。
  • 介護休暇の取得記録
    仕事を持ちながら介護を行っていた場合、介護休暇の取得記録は介護の負担の大きさを示す証拠となります。
  • 医療関係者の証言
    訪問看護師や訪問診療の医師など、専門家の証言も有効です。彼らの目から見た介護の質や程度は、客観的な評価として重要です。

これらの証拠を通じて、自分たちがしてきた寄与行為は「第三者に有償で委任する程度の行為」であったことを示すことが重要です。つまり、24時間体制での献身的な介護など、通常の家族関係では期待される程度を遥かに超えた介護であったことを立証する必要があります。

以上のポイントを押さえて立証を行うことで、療養看護型の寄与分が認められる可能性が高まります。ただし、寄与分の認定は個々の事案によって判断が異なるため、ひとりで悩まずにまずは、弁護士にご相談ください。

まとめ:療養看護の寄与分と民法改正

2018年の民法改正と第1050条の影響

2018年の民法改正により新設された第1050条は、療養看護型の寄与分に関して重要な変更をもたらしました。この条文は、相続人以外の親族による特別寄与を認めるものです。

具体的には、義理の親(配偶者の実親)に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした場合などに、相続人でなくても特別寄与料の支払いを請求する権利を認めています。

この改正により、相続人でない親族の貢献も評価されることになり、相続人でないにもかかわらず献身的な介護を行った親族にも還元できるようになり、より公平な財産分配が可能になりました。

ただし、この規定はまだ新しく、具体的な判断基準については、これまでの寄与分の考え方を踏まえつつ、今後の裁判例の蓄積を待つ必要があります。

また、この特別寄与料の請求期限は、特別寄与者が「相続の開始及び相続人を知った時から6ヶ月」「相続開始の時から1年」のどちらかに該当したときとなっており、かなり短い期間となっているので注意が必要です。

今後の展望と相談の重要性

療養看護型の寄与分は、様々な事情を考慮する必要があり、想像以上に複雑です。そのため、寄与分を主張する際には、最新の法令や裁判例を踏まえた専門的なアドバイスを受けることが極めて重要です。

療養看護型の寄与分でお困りの方は、初回相談料は無料になっておりますので、お気軽に当事務所までご相談ください。経験豊富な弁護士が、あなたの状況を丁寧に伺い、最適なアドバイスを提供いたします。

 

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