【事例】限られた証拠で被代襲相続人の遺留分侵害額請求を退けた

今回は「遺留分侵害額請求をされた被告が『原告には特別受益があるため遺留分はない』と主張して、遺留分侵害額請求を退けた」事例をご紹介します(※分かりやすくするため、一部簡略化しています。)。

遺留分侵害額請求などの専門用語については、下記ページで解説していますので、分からない場合は先にご覧ください。

概要

被相続人Zは、亡くなる前に「遺産を全てAに相続させる」という内容の自筆証書遺言を作成していたことからAは、遺言に基づき、Zの全ての遺産を相続したところ、Zの代襲相続人となったBの子であるDは「私の遺留分が侵害されている!!侵害分を返せ!!」との主張をして、Dは、Aに対して遺留分侵害額請求訴訟を起こしました。

被告Aの主張の問題点と解決策

被告Aは「原告Dの父である被代襲者Bは、被相続人Zから生前贈与を受けているため、原告Dに遺留分はない。」と主張することにしましたが、贈与の当事者である被代襲者Bと被相続人Zがともに他界していることから事実確認を行うことができず、原告Dと被告Aの間で仮定に仮定を重ねた主張が展開されて、水掛け論になる危険性がありました。

そのため被告Aは、「原告Dには遺留分がない」という主張を、手元にある限られた証拠だけで、堅固なものとする必要がありました。被告Aは「被相続人Zが被代襲者Bに金地金(金塊・金の延べ棒)を贈与していた。」という記憶を頼りに証拠を探し、

  • ●年●月29日に、金地金を購入したときの領収書(宛名は被代襲者B)
  • 同年同月22日に、金地金の購入に要したとみられる費用を被相続人Zの銀行口座から払い戻しをした出金記録

が見つかりました。

これらの証拠を堅固なものとするため、出金した金額と購入に要した金額の差について調査を行い、購入代金とは別に購入準備金・仲介手数料を支払う必要があることが判明し、差額の原因の目星をつけました。

さらに、当時、被相続人Zが多額の金銭を必要とする事情がないことも合わせて、「被相続人Zによる払い戻しと金地金の購入について、金額及び時期が近似・近接しており、そして払戻金額と領収書に記載の購入金額に差があるのは、仲介手数料や手数料も含めた額を払い戻したものであって不整合な点はない」との結論を導きました。

裁判所の判断

裁判所は、まず

  • 被相続人Zが、●年●月22日、Z名義の▲▲銀行から◆◆万円を払い戻したこと。(出金記録より)
  • ●年●月29日、▲▲銀行を介して、■■証券会社において、被代襲者B名義で本件地金が◇◇万円(手数料及び消費税込み)で購入されたこと。(領収書より)

から、預金からの上記払い戻しと本件地金購入の金額及び時期が近似・近接していることを認定しました。

これに加えて、証人尋問時に、現在本件地金を保管している被代襲者Bの配偶者であるCから「金が購入されたこと、被代襲者Bが金地金を購入したことを知っているが、その原資については知らない」との供述があったことを併せて考え、被相続人Zがその子である被代襲者Bに対し、少なくとも本件地金の代金である◇◇万円を贈与したものと推認でき、これを覆すに足りる証拠がないと判断しました。

以上を踏まえて、被相続人Zの被代襲者Bに対する本件地金贈与の金額及び購入の目的に照らすと、本件地金贈与は、生計の資本としての贈与に当たるというべきであるとして、「特別受益」を認定し、被告Aの当初の主張通り、「原告Dには遺留分がない」という判断がされました。

まとめ

今回の事例では、主張を決定づける直接の証拠がなくても、主張の内容に合理性があるとの立証ができれば、裁判所から当該事実が存在するとの認定してもらえることがあることをご紹介しました。

もちろん、今回ご紹介した証拠以外にも生前の被相続人Zと被告A・被代襲者Bとの関係、主張と証拠に齟齬がないかなど様々な要素が積み重なってこのような裁判所の判断に至っているので、単純に出金履歴と領収書があるだけでは、遺留分をゼロであるとして遺留分侵害額請求を退けることはできません(遺留分は本来法律により強く保護されているからです。)。

弁護士にご相談いただくことで、証拠が裁判所から事実認定がもらえる程度のものかの判断をしたり、お話しいただくことで昔の記憶を呼び起こすことが出来るかもしれません。相続のことでお悩みでしたら、当事務所では初回法律相談は無料となっておりますので、一人で考え込まずにぜひ弁護士にご相談ください。

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