【事例】公正証書遺言が無効と認められた

遺言の中でも、もっとも確実性と信頼性が高い公正証書遺言ですが、
今回紹介する事例では、遺言能力が無かったとして、公正証書遺言が無効と認められました。

こちらの事例は
コラム:『その遺言、有効か無効か、遺言能力の考慮要素』と合わせてお読みください。

遺言の内容

  • 遺言A(公正証書遺言・9月作成)
    ・店舗経営の後継者に、不動産、金融資産の一部を遺贈
    ・お世話になった友人5人に、一定の金融資産を遺贈
    ・病院に付き添ってくれたX氏に、その他の金融資産を遺贈
  • 遺言B(公正証書遺言・遺言A作成の翌年、6月作成)
    ・昨年作成した公正証書遺言を含む、今までになした遺言の全部を撤回する

【遺言B】が有効であるか無効であるかが争われた。

主要人物

  • 被相続人
    ・配偶者・実子なし(Y氏と養子縁組の届出あり)
    ・店舗を経営
  • X氏
    ・遺言Aで指定された受遺者
    ・遺言Bの無効を主張
  • Y氏
    ・被相続人の兄弟の孫(被相続人と養子縁組の届出あり)
    ・遺言Bの有効を主張

時系列

9月 遺言A作成
遺言Aの作成を依頼された弁護士が作成前に、
病院に対して被相続人の認知機能について照会。
【照会結果】
長谷川式簡易知能評価が24点と正常範囲であり、
明らかな認知機能障害は認められない
翌年
4月 被相続人が入院
5月 被相続人が『認知症高齢者の日常生活自立度判定基準』のランク【Ⅱb】の判定
・看護師に対して「どなた?」と発言
・病院の部屋から出て自室が分からなくなった
被相続人が退院(通院に変更)
疼痛の増強に伴い、オキノーム(痛み止め薬)を増量投与
6月 遺言B作成
作成の際に、高度の難聴があったにもかかわらず、補聴器をつけていなかった
7月 被相続人、Y氏と養子縁組の届出
9月 被相続人死亡

 

遺言能力の有無の考慮要素

  • ①遺言者の精神疾患(障害)の存否、内容、程度
    『認知症高齢者の日常生活自立度判定基準』のランク【Ⅱb】の判定。
    オキノームの増量投与の影響で判断能力が著しく減退していたことが推認される。
  • ②遺言作成の具体的状況
    高度の難聴があったにもかかわらず、補聴器をつけていなかった。
  • ③遺言内容などの難易の程度
    「今までの遺言の全部を撤回する」といった内容。
  • ④遺言内容の自然性・合理性・公平性の程度
    遺言Aは正常な判断能力のもとで十分に検討して作成されたものであるにもかかわらず、
    遺言Bは店舗の後継者、お世話になった友人、病院に付き添ったX氏に対する
    遺贈の全てを撤回する内容。
  • ⑤その他1
    Y氏側の証人は、被相続人が「とんでもないことをしてしまった」
    「みんな元に戻したい」と訴えていたと証言。しかしながら、同証人は、
    被相続人が作らされたという遺言Aがどのような内容であったかは全く述べなかったとも証言。
    このことから被相続人は自ら作成していた遺言Aの内容を認識していなかったことがうかがえる。
  • ⑥その他2
    Y氏側証人による、被相続人に異常な言動が無かったとの証言は、
    カルテの記載に照らして信用できない。

判決【遺言Bは無効】

遺言Bがされた経緯、内容、被相続人の心身の状況を合わせ考慮すれば、
遺言Bは、Y氏の意向が強く反映されたものであって、被相続人は、
遺言Bにより効力が消滅する、遺言Aの内容を理解した上でこれを撤回したとは考え難い。
したがって、被相続人は遺言Bの内容及びその効果を弁識する能力を欠いた状態で、
遺言Bを作成したものと認められる。

本件遺言は公正証書によってされているため、その作成に当たっては公証人が被相続人の意思を
確認したとは考えられるものの、被相続人の心身の状況や本件遺言の内容に加え、
被相続人には高度の難聴があったにもかかわらず当時補聴器をつけていなかったことに照らすと、
上記判断を覆すに足りない。

まとめ

今回の事例のように、公正証書遺言であっても、被相続人に遺言能力が無ければ、
遺言書の無効が認められる可能性があります。遺言書に不審・不可解な点が
あるのであれば一度、弁護士にご相談ください。

当事務所では初回相談料を無料とさせていただいていますので、
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