【事例】相続トラブルを未然に防ぐ「遺留分放棄の許可」制度の活用

遺留分(事前)放棄の許可制度をご存知でしょうか?

令和4年(2022年)司法統計年報(家事編)によると、「相続の放棄の申述の受理」が約26万件あるのに対し、「遺留分の放棄についての許可」は801件しかありませんでした。

今回は、そんなあまり知られていない遺留分放棄の許可制度をつかって、民事トラブル後に発生する恐れのあった相続トラブルを未然に防いだ事案をご紹介します。

事案の概要

Zは、老後の面倒をみるという条件で、子であるAに対して2000万円以上の資金援助をしていましたが、関係が悪化したことで老後の面倒をみるという条件が満たされなくなったことから、援助してきた資金の返還を求めていましたが、交渉ではまとまらなかったため、やむを得ず、裁判上での和解を見越して訴訟を提起しました。

裁判所からの意見

  • Zが求めている2000万円以上の資金援助については審理の対象になっていない。
  • 双方の請求(建物明渡し、未払賃料請求・違約金請求)に対して判決を出しても、紛争の抜本的な解決にならない。裁判所は終局的な紛争解決機関である以上、和解によって解決したい。

和解の概要と結果

  • AがZに、解決金を支払う。
  • 売買契約の債務不履行による違約金は無し。
  • Aは、特別受益として贈与を受けていることを認め、ZとYの相続に関し、遺留分放棄の許可申立をする。

和解成立後、Zらの立会のもと、Aが遺留分放棄の許可申立を行い、1ヶ月程度で許可の審判が出されました。

また、ZとYはそれぞれ「自己の財産は全てBに相続させる」という内容の遺言書も作成しました。

遺留分放棄の許可制度を利用する際の注意点

01 相続権までは放棄されず、遺言書の作成が必要

あくまで「遺留分」の放棄のため、相続権は残ってしまいます。そのため、遺言書が無ければ、通常通り法定相続分に従って(もしくは遺産分割協議を行い)、遺留分の放棄をした人も遺産を取得することになってしまいます。

遺留分の放棄によって、将来の相続トラブルを未然に防ぎたい方は、きちんと遺言書を作成するようにしましょう。

02 裁判所の許可が必要

遺留分の放棄は、相続放棄とは違い、相続開始前(ZやYが亡くなる前)にすることができます。ただし、家庭裁判所の許可が必要になります(※1)。自分たちで作った遺留分を放棄するという内容の誓約書に署名押印していたとしても、後々効力を争う恐れもあり、かえってトラブル発生の原因となり得るので、きちんと裁判所に申し立てて許可を受けておきましょう。

※1【民法第1049条第1項】
相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。

03 許可を受けるには合理的な理由が必要

遺留分放棄の許可は、本人の自由意志で行われているか、代償利益があるか、申立に合理的な理由があるかなどを考慮し、判断されます。

周りから干渉を受けていたり、合理的な理由が無いため却下された判例などを含めて、遺留分放棄に関する判例を載せておきますので参考にしてください。

  • 水戸家庭裁判所下妻支部(平成15年6月6日)《東京高等裁判所(平成15年7月2日)》
    遺留分は、相続人の生活保障等の見地から、…法が特に認める取得分であるから、その相続開始前の放棄に当たっては、遺留分放棄を相当とするに足りる程度の合理的代償利益の存在を必要とすると解される。…少なくとも、遺留分放棄を相当とする合理的代償は一切ないことが明らかである。
    →【原審判取消】東京高等裁判所(平成15年7月2日)
    遺留分を放棄することが、…株式等の帰属の問題について調停による迅速な解決を導く一因となったのであるから、実質的な利益の観点からみても、抗告人の遺留分放棄は、不合理なものとはいえない
  • 東京地方裁判所(平成11年8月27日)
    和解における遺留分放棄の合意をもって家庭裁判所の許可に代替しうるという…主張は採用できない。…家庭裁判所の許可の手続が履践されていないことを奇貨として、遺留分を行使することを認めるならば、…二重取りを許すことになり、著しく信義に反することになる。
  • 和歌山家庭裁判所妙寺支部(昭和63年10月7日)
    申立人と被相続人の間で、…結婚問題につき長い期間にわたり親子の激しい対立があり、…本件申立をした動機も、被相続人による申立人に対する強い干渉の結果によることも容易に推認できるところである。
  • 和歌山家庭裁判所(昭和60年11月14日)
    自己の結婚について父母の了解を得たいとの一心から、父の意思を忖度して本件申立をしたものであり、しかも、被相続財産が高額になることからすると、本件申立が申立人の全くの自由意思によつてなされたと認定するには多大の疑問が残り、したがつて、本件申立をしなければならない合理的理由を見出すこともできない
  • 大阪家庭裁判所(昭和46年7月31日)
    両親からの自己の結婚問題に関するかなり強度の干渉の結果と言わざるを得ない
  • 神戸家庭裁判所(昭和40年10月26日)
    …5年後に金300万円を贈与するという契約…申立人に…思わぬ損害を惹起する虞れがないとはいえない。

令和4年(2022年)司法統計年報(家事編)によると、許可された件数(認容)が763件、却下された件数が4件と、認容率は99%を超えています。例え、取下げの43件全てを「認められそうにないから取下げた」として計算しても9割以上の方が許可を受けることができていることになります。

今回ご紹介した事例のように、特別受益として贈与を受けて、裁判上での和解しているなどの事情があれば、遺留分放棄の許可申立の合理性についてはあまり問題にはならないでしょう。

まとめ

相続(家族間での)トラブルに対して、様々な解決方法があり、今回ご紹介した事例のように相続の開始前に解決できる場合もあります。相続トラブルではないけど家族間でもめている、遺留分放棄の許可申立をしたいが認められるかわからないなど、お困りのことがございましたら、当事務所では初回法律相談は無料となっておりますので、一人で考え込まずにぜひ弁護士にご相談ください

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