2018年7月に、相続法改正(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律)が成立しました。
これにより、相続に関するルールが大きく変わります。
すでに、2019年1月13日から「自筆証書遺言の方式を緩和する方策」が施行されており、
2019年7月1日には「配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設」以外の相続法改正が
施行されます。
※
民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律と合わせて、
遺言書保管法(法務局における遺言書の保管等に関する法律)も成立しており、
こちらは2020年7月10日に施行されます。
今回は、相続法改正の中でもメディアではあまり取り上げられていない
「相続の効力等に関する見直し」を分かりやすく解説します。
この「相続の効力等に関する見直し」については、
特に、遺言によって不動産を相続する・相続させるときには知っておかないと
遺言どおりの相続ができなくなってしまう恐れが出てきます。
【相続法改正前の制度】相続法改正に関わる判例(平成14年6月10日 最高裁判所)
裁判内容(一部簡略化)
※ 分かりやすくするために不動産以外の相続分はないと仮定します。
被相続人Zには、AとBの相続人2人がいましたが、
Zは遺言により、相続財産の不動産の権利一切をAに相続させました。
この遺言により、Bは不動産を相続しませんでした。
(遺言が無ければ、不動産の権利半分を相続するはずでした。)
BにはXへ債務(借金などを返還しなければならない義務)があり、
債権者(借金などの返還を請求する権利がある者)であるXは
BがZから相続したであろう不動産を差押え、競売することによって債権回収をしようとしました。
【Aの立場】
自身が所有する不動産を勝手に差押え、競売されようとしている。
【Xの立場】
こちらでは遺言の内容を知ることができないし、登記もしていないのに
自身の所有する不動産と主張されるとこちらの利益が害されてしまう。
判決文
特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、特段の事情のない限り、
何らの行為を要せずに、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により
承継される(中略)「相続させる」趣旨の遺言による権利の移転は、法定相続分又は指定相続分の
相続の場合と本質において異なるところはない。そして、法定相続分又は指定相続分の相続による
不動産の権利の取得については、登記なくしてその権利を第三者に対抗することができる(中略)
遺言によって取得した不動産又は共有持分権を、登記なくして上告人らに対抗することができる。
(上告人・・・債権者X)
(全文は裁判所のホームページよりご覧いただけます。)
「対抗することができる」とは
本件の場合、法的に「不動産の権利一切をAが所有している」と
Xに対して主張することができるということです。
問題点
これまでの制度には次のような問題点がありました。
(法務省【相続の効力等に関する見直しについて】より)
- 遺言の有無及び内容を知り得ない相続債権者・債務者等の利益を害する
- 登記制度や強制執行制度の信頼を害するおそれがある
【相続法改正後の制度】民法第899条の2
上記の問題点を改めるため、相続法改正により次の条文が新設されました。
【民法第899条の2】
相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、
次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、
登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
※
「次条及び第九百一条の規定により算定した相続分」とは、いわゆる法定相続分のことです。
詳しくは【相続の基礎知識と「数次相続」】をご覧ください。
相続法改正施行後に上記の裁判と同じような問題が発生した場合、
相続した不動産を登記していなかったAはXに対して、Aの法定相続分を
超える部分(Bの法定相続分)の所有権を法的に主張することができなくなります。
ですので、法定相続分を超えて相続したときには、登記、登録など
速やかに対抗要件を備える必要があります。
遺言執行者の権限の明確化
今回の相続法改正では「相続の効力等に関する見直し」と合わせて
「遺言執行者の権限の明確化」もなされています。
その明確化された権限の中に、次のようなものがあります。
【民法第1014条第2項】
遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は
数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、
遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を
備えるために必要な行為をすることができる。
【民法第1016条】(改正前)
遺言執行者は、やむを得ない事由がなければ、第三者にその任務を行わせることができない。
ただし、遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは、この限りでない。
↓
【民法第1016条】(改正後)
遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。
ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
法定相続分を超えて相続したときは速やかに対抗要件を備える必要がありますが、
登記などの手続きは、複雑になる場合が多く、かなりの労力がかかってしまいますし、
親族が亡くなってすぐにこういった手続きについて考えることは精神的にも負担があります。
遺言で法定相続分を超えて相続させたいときに、遺言執行者に専門家を指定することで、
速やかに対抗要件を備えることができ、相続人への負担も軽減できます。
また、上記の民法第1016条の改正によって、遺言執行者に相続人や専門家でない人を指定しても
遺言執行者が専門家へ手続きを依頼することが容易になりました。
法定相続分は登記していなくても対抗できる
新設される【民法第899条の2】について考えると、
「法定相続分を超える部分については対抗できない」≒「法定相続分は対抗できる」
と解釈することができます。
「法定相続分については、登記無くして第三者に対抗できる」という考え方は、
【平成14年6月10日 最高裁判所】の判決文にある「相続による不動産の権利の
取得については、登記なくしてその権利を第三者に対抗することができる」という部分の
参照元である【昭和38年2月22日 最高裁判所】の判決文が参考になります。
判決文
(図と統一するため「甲・乙・丙」を「A・B・X」に置き換えています。)
相続財産に属する不動産につき単独所有権移転の登記をした共同相続人中のAならびに
Aから単独所有権移転の登記をうけた第三取得者Xに対し、他の共同相続人Bは
自己の持分を登記なくして対抗しうるものと解すべきである。けだしAの登記は
Bの持分に関する限り無権利の登記であり、登記に公信力なき結果XもBの持分に
関する限りその権利を取得するに由ないからである。
まとめ
不動産を相続したときには、速やかに登記することをおすすめします。
また、インターネット上には相続法改正前の情報(「相続させる」旨の遺言の場合、
第三者に対抗するのに登記は必要ない)が残っています。
このページに限らず、法律関係の情報は更新日を確認して常に最新の情報を選択する
必要があります。
しかし、情報があふれている現代では、正しい最新の情報を選択することは困難です。
遺言・相続のことでお困りでしたら、弁護士へご相談することをおすすめします。
当事務所では初回相談料を無料とさせていただいていますので、お気軽にご相談ください。