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相続で評価される療養看護の寄与分
療養看護型の寄与分とは
療養看護型の寄与分は、相続において重要な役割を果たす概念です。
そもそも、寄与分とは民法第904条の2に規定されており、被相続人の財産の維持や増加に特別に寄与した共同相続人がいる場合に、その貢献度合いに応じて相続分に反映させる制度です。具体的には、被相続人の事業に関する労務の提供や財産上の給付、そして今回のテーマである被相続人の療養看護などが対象となります。そのため、特に長期にわたって被相続人の介護を担ってきた方にとって、大切な制度となっています。
しかし、療養看護型の寄与分の認定には様々な課題もあります。介護の程度や期間、被相続人の状態など、多くの要素を総合的に判断する必要があるため、その評価は必ずしも容易ではありません。そのため、具体的にどのような場合に寄与分が認められるのか、裁判例を通じて見ていく必要があります。
まずは、療養看護型の寄与分が認められた代表的な審判例を紹介します。そして、そこから導き出される判断基準について詳しく解説します。実際に寄与分を主張する際の重要な指針となりますのでぜひご一読ください。
療養看護型の寄与分が認められた代表的な審判例
盛岡家庭裁判所・昭和61年4月11日審判の概要
療養看護型の寄与分について考える上で、盛岡家庭裁判所の昭和61年4月11日の審判を紹介します。この審判は、療養看護による寄与分の認定に関する基準を示した代表的な事例として知られています。
被相続人には、亡夫との間に6人の子ども(内1人は戦死)がいましたが、申立人以外は独立し、郷里を離れて生活していました。被相続人は、申立人が結婚した後も申立人家族(夫婦と子の3人)と同居して世話になりたいと考え、亡夫の退職金などを資金として土地を購入し、居宅を新築しました。そして、居宅が完成した昭和35年9月、被相続人は申立人家族と同居生活を開始しました。
その後、申立人は家賃の支払はしなかったものの、水道光熱費や家屋の修繕費などは負担していました。
そして、昭和46年ころから認知症の症状が特に重くなり、食事や用便も人の手を借りなければならない状態となり、四六時中被相続人から目が離せなくなっていました。さらに、夜間起き出して徘徊するようになってからは家族3人で不寝番をしなければならない状態になっていました。
《被相続人の認知症等の症状》
- 目を離すと外出してバイパスへ飛び出す
- 物が盗まれるなどという被害的言動が多くなる
- 些細なことで興奮して家人に乱暴する
- ガス栓を回す
- ストーブの灯油を撒き散らす
- 水道の水を出し放しにする
- 布団に水をかける
- 薬を一度に全部飲んでしまう
昭和56年4月に、申立人の夫が転勤のため単身赴任となり、子も県外の大学に進学したことで申立人が独りで看護せざるを得なくなったことで、病院で被相続人を診てもらったところ、自宅療養は無理があると診断され入院することになりました。入院から約5ヶ月後に被相続人が亡くなりました。
これらの認定事実から、裁判所は同居の全期間を寄与分の対象とはせず、被相続人の認知症の症状が特に重くなり、四六時中の介護が必要となった時点の昭和46年以降から死亡に至るまでの10年間を、親族間の扶養義務に基づく一般的な寄与の程度を遥かに超えたものとして「特別の寄与」と認めました。
「特別の寄与」の判断基準
盛岡家裁の審判から、「特別の寄与」の該当性について、被相続人の状態と寄与行為の態様の両側面について詳細な事実認定を行っていることが分かります。
つまり、単に長期間介護を行ったというだけでは不十分で、被相続人がどのような状態であったか、そしてそれに対してどのような介護が行われたかが重要になります。
「身分関係において通常期待される程度を超える貢献」とは
「特別の寄与」として認められるためには、「身分関係において通常期待される程度を超える貢献」が必要です。これは、単に親の面倒を見たというだけでは不十分であり、通常の親子関係や夫婦関係で期待される程度を超えた介護が行われたことを意味します。
例えば、本来なら介護施設への入居や入院等が必要な状態であるにもかかわらず、自宅で献身的な看護を行ったような場合があります。介護施設への入居や入院等が必要な状態とは、要介護度2以上の状態であることが1つの目安となりますが、これだけで判断されるわけではありません。
被相続人の状態と寄与行為の態様の評価
被相続人の状態の評価には、医療記録や介護保険認定調査票などの客観的な資料が重要です。これらの資料を通じて、被相続人が職業的な援助を必要とする状態であったことを示す必要があります。
一方、寄与行為の態様については、相続人が行った療養看護の具体的な内容や程度を示す必要があります。この具体的に行った療養看護の内容が、第三者に有償で委任する程度の行為であったと認められれば、「特別の寄与」として寄与分が認められる可能性が高くなります。
続いて、最近の裁判例も確認して、現在の裁判所の判断傾向についても確認しておきましょう。
療養看護型の寄与分に関する最近の裁判例
寄与分が認められなかった事例(札幌高等裁判所・平成27年7月28日決定)
札幌高等裁判所の平成27年7月28日の決定は、被相続人が経営する事業に従事していたことを理由とする寄与分についての裁判例ですが、療養看護についての寄与についても僅かながらですが、言及があるのでご紹介します。
寄与分を主張していた被抗告人は、被相続人が膀胱と前立腺の全部摘出手術を行い、その後被相続人が死亡するまでの間、ストーマ用装具の交換等術後のケアに追われていたと主張していました。
しかし、裁判所はストーマ用装具交換の図によると、ストーマ用装具は被相続人がひとりで交換できたと考えられることなどを総合して、被相続人に対する療養看護について、被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与があったと認めることはできないと判断しました。
裁量的割合を用いた寄与分の算出(東京高等裁判所・平成29年9月22日決定)
療養看護型の寄与分は、本来は介護事業者に依頼し、費用を支払わなければいけなかった金額を、家族自らが無償で介護することで、被相続人の支出が減り、被相続人の財産の維持や増加につながることで認められます。
しかし、「扶養義務を負う家族が行った介護」と「資格を有している事業者の介護」とでは発生する報酬が違うと考えられるため、介護事業者に依頼していたら支払っていたであろう金額をそのまま寄与分としてしまうと公平性が損なわれてしまうため、裁量的割合を考慮することになります。
今回の裁判では、次のような理由も考慮して、裁量的割合は70%と判断されました。
抗告人は被相続人の子であって,抗告人がした介護等には,被相続人との身分関係に基づいて通常期待される部分も一定程度含まれていたとみるべきこと,抗告人は,被相続人所有の自宅に無償で居住し,その生活費は被相続人の預貯金で賄われていたこと,被相続人は,第三者による介護サービスも利用していたことからすれば,原審判が,第三者に介護を依頼した際に相当と認められる報酬額に裁量的割合として0.7を乗じて寄与分を算出したことが不当であるとはいえず,抗告人の主張は採用できない。 |
療養看護型の寄与分を主張するためのポイント
被相続人の状態の立証方法
療養看護型の寄与分を主張する際、被相続人の状態を客観的に示すことが極めて重要です。そのための効果的な立証方法として、以下のようなものが挙げられます。
- 医療記録
被相続人の病状や治療経過を示す医療機関の記録は、客観的な証拠として非常に有効です。特に、長期的な病状の変化や、医療的ケアの必要性を示す記録は重要です。 - 介護保険認定調査票
要介護度の認定結果や、認定調査の詳細な内容は、被相続人の日常生活動作(ADL)の状況を示す重要な証拠となります。 - 親族やケアマネージャーの証言
最も身近な存在である介護をしていた親族の証言は、被相続人の状態を知るための大切な情報です。ただし、介護の大変さから、実際よりも過剰に感じてしまっている部分もあるので、弁護士とヒアリングしながら客観的に正確にまとめていくことが大切です。また、介護保険サービスを利用していた場合、ケアマネージャーの証言は被相続人の状態や、実際の介護の状況を示す有力な証拠となります。
これらの証拠を組み合わせることで、被相続人が「介護を必要とする状態」であったことを示すことができます。特に、要介護度2以上の状態であることが分かれば、より認められやすくなります。
寄与行為の態様の立証方法
次に、自身が行った療養看護の具体的な内容や程度を示すことが重要です。以下のような方法が効果的です。
- 介護日誌
日々の介護内容を詳細に記録した介護日誌は、介護の実態を示す重要な証拠となります。特に、夜間の介護や医療的ケアの内容、頻度などを記録しておくことが大切です。 - 介護用品の購入記録
おむつや介護食品、介護用ベッドなどの購入記録は、介護の程度や継続性を示す証拠となります。購入費については、被相続人の年金や預貯金から支払っている例が多く、寄与分と認められた裁判例はあまりありませんが、記録に残しておくことで不当利得返還請求訴訟を起こされたときの対策にもなるので必ず残しておきましょう。 - 介護休暇の取得記録
仕事を持ちながら介護を行っていた場合、介護休暇の取得記録は介護の負担の大きさを示す証拠となります。 - 医療関係者の証言
訪問看護師や訪問診療の医師など、専門家の証言も有効です。彼らの目から見た介護の質や程度は、客観的な評価として重要です。
これらの証拠を通じて、自分たちがしてきた寄与行為は「第三者に有償で委任する程度の行為」であったことを示すことが重要です。つまり、24時間体制での献身的な介護など、通常の家族関係では期待される程度を遥かに超えた介護であったことを立証する必要があります。
以上のポイントを押さえて立証を行うことで、療養看護型の寄与分が認められる可能性が高まります。ただし、寄与分の認定は個々の事案によって判断が異なるため、ひとりで悩まずにまずは、弁護士にご相談ください。
まとめ:療養看護の寄与分と民法改正
2018年の民法改正と第1050条の影響
2018年の民法改正により新設された第1050条は、療養看護型の寄与分に関して重要な変更をもたらしました。この条文は、相続人以外の親族による特別寄与を認めるものです。
具体的には、義理の親(配偶者の実親)に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした場合などに、相続人でなくても特別寄与料の支払いを請求する権利を認めています。
この改正により、相続人でない親族の貢献も評価されることになり、相続人でないにもかかわらず献身的な介護を行った親族にも還元できるようになり、より公平な財産分配が可能になりました。
ただし、この規定はまだ新しく、具体的な判断基準については、これまでの寄与分の考え方を踏まえつつ、今後の裁判例の蓄積を待つ必要があります。
また、この特別寄与料の請求期限は、特別寄与者が「相続の開始及び相続人を知った時から6ヶ月」「相続開始の時から1年」のどちらかに該当したときとなっており、かなり短い期間となっているので注意が必要です。
今後の展望と相談の重要性
療養看護型の寄与分は、様々な事情を考慮する必要があり、想像以上に複雑です。そのため、寄与分を主張する際には、最新の法令や裁判例を踏まえた専門的なアドバイスを受けることが極めて重要です。
療養看護型の寄与分でお困りの方は、初回相談料は無料になっておりますので、お気軽に当事務所までご相談ください。経験豊富な弁護士が、あなたの状況を丁寧に伺い、最適なアドバイスを提供いたします。
寄与分が認められた裁判例と認められなかった裁判例
寄与分とは、相続人の中で被相続人の財産の維持・形成に貢献したことが認められた人が受け取ることのできる遺産のことで、民法第904条の2で定められています。
【民法第904条の2第1項】 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。 |
今回は、寄与分の中でも、いわゆる金銭等出資型の寄与によって被相続人の財産の維持又は増加したことに焦点を当てた事件を紹介します。「寄与分が認められた裁判」と「寄与分が認められなかった裁判」の2つを取り上げ、寄与分が認められやすい事情について解説します。
※分かりやすいように実際の事例から、遺産の金額・相続人の人数などを変更し、寄与分に絞って紹介します。
寄与分が認められた裁判
概要
母親の相続に関して、長男が寄与分を主張した事案です。
被相続人である母親は専業主婦として家庭を支え、長男と同居していました。父親が亡くなる5年前から長男が自営業を実質的に経営し、生計を支えてきました。そして、父親の相続時に長男が事業全体を引き継ぎ、母親には毎月15万円の専従者給与(少し手伝っていた程度だったようです。)と家族の生活費として15万円を手渡していました。母親の遺産は約5000万円が残されており、長男は自身の貢献を理由に寄与分を主張しました。
判決
下記の理由から、遺産の30%が寄与分であると認められました。
当該給付に関して被相続人に労務の提供がみられる場合には、提供した労務に見合った賃金や報酬等が提供した労務の対価に見合ったものではなく、不相応に高額であると認められるときは、労務の対価を超える部分については寄与分と認められる余地があると解される。 |
個人情報保護の観点から、被相続人(母親)がしていた事業の手伝いがどのようなものであったかはご紹介できませんが、事業にほどんど関わっていなかったこと(事業運営に関する資料)と30万円もの高額な賃金を支払っていたこと(通帳や振込明細)を提示することで、提供した労務に見合わない高額な対価を支払っていたことが認められ、その結果、寄与分が認められました。
ちなみに、この判断の前提として、労務の提供がみられない場合に寄与分が認められる条件についても言及されています。
相続人が被相続人の財産形成に寄与したというためには、財産給付の内容が被相続人との身分関係に基づいて通常期待される範囲を超えていることが必要であるとともに、当該給付が無償又はこれに近い状態でされたことが必要である… |
寄与分が認められなかった裁判
概要
被相続人の姉であるBは、女性の働き口が少なかった時代に被相続人を、Bの夫であるCが経営する事業の正社員として雇用するように口利きし、その結果、被相続人は一般女性よりも多くの収入を得ることができたこと及び、被相続人は、Cが経営する事業で働いている期間の大半をB・Cの家で暮らし、家賃・光熱費等の支払を免れていたことから、被相続人の財産の増加に寄与したとして、寄与分を主張しました。
判決
下記の理由から、寄与分は認められませんでした。
Bが、被相続人との同居中に家賃や光熱費等生活費のほとんどを負担していたことを裏付ける的確な資料はない上、秘蔵族人は…生活費を負担する経済的余裕もあったと認められること、…Bと被相続人は年齢も1歳程しか違わなかったこと等に鑑みれば、生活費等の一切をBが負担し、被相続人に負担させていなかったと推認することはできない。 (※Cが経営する事業を退職後の銀行口座の取引履歴が残っている部分について)被相続人の…預金は、…いずれも増加しており、…期間中にBによる寄与があったとは認められないことに鑑みれば、被相続人には、…退職後も、…預貯金額について、自ら獲得ないし維持できるだけの能力ないし資源…があったと推認される。よって仮にBが…光熱費等負担をしていた事実があったとしても、それが本件分割対象預金の形成ないし維持につき特別の寄与として役立ったとは認められない。 |
なお、口利きで就職できたことに関しては、原審判では「具体的な収入が明らかでない」とわずかに言及されていましたが、抗告審で改められ、言及部分が無くなり寄与分の判断の対象から除かれました。
まとめ
寄与分が認められるには、具体的な貢献内容と金額の証明が重要です。単なる無家賃での同居では、相互扶助の範囲内と考えられたり、財産の形成・維持に寄与したとまでは考えられなかったりするため、寄与分の主張としてあまり有効ではありません。一方で、提供した労務に見合わない高額な対価を支払っていた場合は寄与分として認められる可能性があります。
寄与分の主張には複雑な要素が絡むため、専門家のアドバイスが有効です。寄与分についてお困りの方は、初回相談料は無料になっておりますのでお気軽に当事務所までご相談ください。
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ご存知ですか?特別縁故者への相続財産分与制度
特別縁故者への相続財産分与の制度をご存知でしょうか?
この制度は、相続人がいない場合に、
- ①被相続人と生計を同じくしていた者
- ②被相続人の療養看護に努めた者
- ③被相続人と特別の縁故があった者
に対して、裁判所が相続財産を与えることができるというものです。
【民法第958条の2第1項】 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。 |
※前条の場合
期間内に相続人としての権利を主張する者、相続債権者及び受遺者がいないとき
※相続債権者
被相続人に対して債権を持っていた人のこと。【例】被相続人にお金を貸していた人。
※受遺者
遺言によって財産を受け取る人のこと。
特別縁故者への相続財産分与の申立は各年にばらつきはあるものの、少子高齢化・晩婚化・未婚率の上昇などが影響しているようで、この約25年間の推移をみると増加傾向にあり、今後も申立件数は増加していくと考えられています。
※
申立件数は、『司法統計年報(家事編)』を、未婚率は『国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」(2012年版)、「日本の世帯の将来推計(全国推計)(2013年3月推計)」より国土交通省作成』の【図表74 生涯未婚率の推移】を参照して作成しています。
※【図表74 生涯未婚率の推移】より
生涯未婚率とは、50歳時点で一度も結婚をしたことのない人の割合であり、2010年までは「人口統計資料集(2012年版)」、2015年以降は「日本の世帯の将来推計」より、45~49歳の未婚率と50~54歳の未婚率の平均である。
特別縁故者への相続財産分与の対象者
どのような方が特別縁故者への相続財産分与の対象者になるかは、事案によって様々ですが、当事務所では、
- 被相続人の内縁の妻《①被相続人と生計を同じくしていた者》
→相続財産の100%分与 - 被相続人の従兄弟《③被相続人と特別の縁故があった者》
→依頼者以外の特別縁故者2名あり→財産と不動産の一部を分与 - 被相続人の従兄弟《③被相続人と特別の縁故があった者》
→相続財産の100%分与 - 被相続人の甥姪の子(兄弟姉妹の孫)《③被相続人と特別の縁故があった者》
→相続財産の100%分与
といった方々の案件を取り扱ってきました。
個別の事案の紹介は機会がありましたら別途ご紹介しますので、今回は特別縁故者への相続財産分与の制度の流れをご紹介します。
特別縁故者への相続財産分与の手続き
01 相続財産清算人選任申立
特別縁故者への相続財産分与を申し立てるには、まず相続財産清算人(※1)が選任される必要があります。
特別縁故者は民法第952条第1項の利害関係人として、家庭裁判所に相続財産清算人選任申立を行います。
【民法第951条】 相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。 |
【民法第952条第1項】 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任しなければならない。 |
相続財産清算人選任の申立には、次のような資料を合わせて提出する必要があります。
- 被相続人の出生から死亡時までの全ての戸籍謄本など(相続人が存在しないことの証明)
- 申立人が利害関係人であることが分かる資料
- 被相続人の財産に関する資料
詳しくは裁判所のHPをご覧ください。
また、相続財産がある程度あれば、相続財産清算人への報酬は相続財産から支払われますが、相続財産が少ない場合は、申立人が報酬を支払わなければならないこともあります。
申立の内容が問題なければ、裁判所が相続財産清算人を選任します。基本的には弁護士が選任されます。
※1
令和5年4月1日の民法改正により、相続財産管理人から名称が変更になりました。過去の事例紹介の際に、相続財産管理人と出てきた場合は相続財産清算人のことと考えていただいて差し支えありません。
02 相続財産清算人への引き継ぎ
相続財産清算人が選任されると、裁判所から審判書の受取と相続財産清算人への引き継ぎの指示が出されます。
被相続人の預貯金口座の通帳・現金の引き渡しなどがよくある引き継ぎ作業になります。
その他にも、被相続人の葬儀費用を被相続人の財産から使用していた場合や電気、水道、ガス代の自動引落などの支払いの内訳の確認もあるので、事前に被相続人が亡くなった後の金銭の動きを把握しておくことが望ましいです。
その裏で、裁判所は民法第952条第2項規定の公告を行います。
【民法第952条第2項】 …相続財産の清算人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なく、その旨及び相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、六箇月を下ることができない。 |
砕けた言い方で解釈すると「相続人がいないから相続財産清算人を選任したけど、『ちゃんと調べられてないだけで私は相続人です』という人がいたら期限(公告から約6ヶ月頃まで)に言いに来てください。でないと相続する権利なくなりますよ。」という内容になります。
この期限(公告《官報》の内容)については、裁判所から相続財産清算人に連絡が行きますが、申立人には連絡が来ないこともあるので、相続財産清算人選任申立書の備考に「申立人は、●●(理由)から、特別縁故者の申立を検討している」と書いておき、相続財産清算人へきちんと事情を話しておくことで、期限を確認し、次の特別縁故者への相続財産分与の申立に備えておくことが大切です。 そして、裁判所が公告したと報告を受けた相続財産清算人が、民法第957条第1項規定の公告を行います。
【民法第957条第1項】 第九百五十二条第二項の公告があったときは、相続財産の清算人は、全ての相続債権者及び受遺者に対し、二箇月以上の期間を定めて、その期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、同項の規定により相続人が権利を主張すべき期間として家庭裁判所が公告した期間内に満了するものでなければならない。 |
砕けた言い方で解釈すると「相続財産清算人に選任されたけど、『被相続人に貸したお金を返してもらってない』とか『相続人じゃないけど遺言で財産をもらえることになっている』という人がいたら期限(公告から約2ヶ月頃まで)に言いに来てください。でないと相続財産(の一部)を受け取る権利なくなりますよ。」という内容になります。
03 特別縁故者への相続財産分与の申立
裁判所が公告した期限までに権利の主張をする人が現れなければ、その期限から3ヶ月以内に特別縁故者への相続財産分与の申立を行う必要があります。
【民法第958条の2第1項】 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。 【民法第958条の2第2項】 前項の請求は、第九百五十二条第二項の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。 |
特別縁故者への相続財産分与の申立を行うと、裁判所から相続財産清算人に分与の適否についての意見書の提出するよう要請が入ります。要請を受けた相続財産清算人は意見書を作成し提出します。
申立人が複数いる場合など、裁判所が必要と判断したときには、調査官による調査(面談や報告書の提出など)が行なわれることもあります。
相続財産清算人の意見書、調査官の調査報告書など必要な書類が出揃った時点で、裁判所から申立人に対して、通知書に記載の記録を元に特別縁故者への財産分与をするか(する場合は全部か一部か)を判断します、という趣旨の『事実の調査の通知書』が届きます。
この記録自体は申立人には送られず、別途、申立人が裁判所に対して閲覧または謄写の申請をする必要があり、謄写の費用は別途支払う必要があります。
記録に不足がある場合は、期限までに追加で主張することができますが、申立時に必要な主張・証拠を提出していれば、基本的に必要ありません。
相続財産清算人の意見書に「分与するのが相当」という内容があれば、ほぼ確実に裁判所も分与が相当と判断してくれます。後は裁判所の審判が出されるのを待つことになります。『事実の調査の通知書』に書かれている追加主張の期限から、審判までの期間に決まりはなく、案件や裁判所が扱っている業務量などによっては想定より待たされることもあります。
04 相続財産の引き渡し
審判で相続財産の分与が認められると、相続財産清算人が管理していた相続財産が引き渡されます。預貯金についてはこちらが振込先の口座を指定して振り込んでもらうことが多いです。
相続財産に不動産がある場合は、裁判所に『審判確定証明書』(150円)を発行してもらい、登記も行う必要があります。当事務所の場合は他士業とも提携しているので、司法書士に登記を依頼しスムーズに手続を進めることが可能です。
登記が完了したら相続財産清算人に報告し、引き渡し業務も完了となり、これで特別縁故者への相続財産分与の手続は全て完了となります。
まとめ
今回は、特別縁故者への相続財産分与の制度についてご紹介しました。
特別縁故者への相続財産分与の申立は、相続財産清算人の選任の申立もする必要があり、期間も確実に6ヶ月以上かかってしまうので、専門家の力なしで行うには大変な労力と心的負担がかかります。当事務所では初回相談無料となっておりますので、お困りのことがございましたら、まずは一度、当事務所までご相談ください。
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