【事例】遺留分侵害額請求されたら、誰がどれだけ負担するの?

前回のコラム『【事例】自宅を相続させたい ~遺留分問題~』で、
「特別受益の持戻し免除の意思表示は、遺留分を侵害する限度で失効する。」とした
最高裁判所 平成24年1月26日】の判決を紹介しました。

この裁判では、「持戻し免除の意思表示が遺留分減殺請求(現:遺留分侵害額請求)により侵害された
場合における具体的相続分の算定方法」についても示しています。

今回は、裁判例を図と合わせて遺留分侵害額請求をされたときの
具体的相続分の算定方法を分かりやすく解説していきます。

※判例につきましては当時の法律に合わせて「遺留分減殺請求」と表記しております。

概要

被相続人Zには、配偶者Aと子どもB・C・H・J・Iの6人の法定相続人がいましたが、
「Aの相続分を2分の1」「B・Cの相続分を各4分の1」「(前妻との子である)H・I・Jの
相続分0」とする公正証書遺言をしました。

この遺言は、H・I・Jの遺留分を侵害しているため、H・I・JはA・B・Cに対して
遺留分減殺請求をしました。

その内の問題点の1つとして、遺留分減殺請求をされたときの具体的相続分
(減殺された遺留分の負担割合)がありました。

原審の判断(大阪高等裁判所 平成23年2月21日)

法定相続分を超える相続分を指定された相続人の指定相続分が、
その法定相続分の割合に応じて修正される

つまり、原審では、Aの指定相続分は法定相続分を超えていないので
遺留分減殺請求をされたときの、Aの具体的相続分は2分の1と
していましたが、最高裁裁判所の判決で破棄差し戻しされました。

最高裁判所の判断(判決)

遺留分減殺請求により相続分の指定が減殺された場合には、
遺留分割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分が、
その遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正されるものと
解するのが相当である

指定相続分がそれぞれの遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正された具体的相続分

最高裁判所の判決では、各相続人の具体的相続分は下図のようになると示しました。
では、実際にどのような計算式で具体的相続分を求めたのか確認してみましょう。

求め方(計算式)

まずは、それぞれの【遺留分割合を超える相続分】を求めます。

求めた【遺留分割合を超える相続分】からそれぞれの
【遺留分割合を超える部分】の比率と割合は次のようになります。

遺留分減殺請求の対象となるのは、Zの財産の20分の3
(H・I・J、それぞれの遺留分である20分の1の合計)ですので、
A・B・Cの負担する金額は、次のようになります。

最後に、指定相続分から負担する金額を引いたものが
具体的相続分となります。

まとめ

前回のコラムと合わせて、【最高裁判所 平成24年1月26日】の判決で示された

  • 特別受益の持戻し免除の意思表示は、遺留分を侵害する限度で失効する
  • 遺留分侵害額請求により相続分の指定が侵害された場合には、遺留分割合を
    超える相続分を指定された相続人の指定相続分が、その遺留分割合を超える
    部分の割合に応じて修正される

の2点について解説しました。

今回ご紹介した裁判例のように、相続問題の1つとして遺留分があります。
遺留分で問題にならないように、どのように遺言作成したらよいのかお困りの方や、
遺留分侵害額請求をされているまたは遺留分侵害額請求をしたい方は
当事務所では初回相談料を無料とさせていただいていますので、お気軽にご相談ください。

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【おまけ】持ち戻し免除の失効と具体的相続【具体的な計算例】

最高裁判所 平成24年1月26日】の判決文では、持ち戻し免除の意思表示がされた
贈与の額については明記されておらず、具体的相続分も割合についてしか言及されていないので、
少し分かりにくかったのではないでしょうか。

そこで、分かりやすい相続例を用意しました。こちらの相続例から

  • 特別受益の持戻し免除の意思表示は、遺留分を侵害する限度で失効する
  • 遺留分侵害額請求により相続分の指定が侵害された場合には、遺留分割合を
    超える相続分を指定された相続人の指定相続分が、その遺留分割合を超える
    部分の割合に応じて修正される

の具体的な計算方法を再確認してみましょう。

概要

被相続人Zには、配偶者Aと子B・C・D・Eの5人の法定相続人がいましたが、
「Aの相続分を2分の1」「B・Cの相続分を各16分の3」「Dの相続分を8分の1」
「Aの相続分を0」「生前、Bへ贈与した640万円は持ち戻しを免除」とする公正証書遺言をしました。
Zの遺産が5,760万円だった場合の各相続人の具体的相続分はいくらになるのでしょうか?
(ZからBへの贈与は相続開始の3年前、Eが遺留分侵害額請求をしたとします。)

まず、ZからBへの贈与は
「相続開始の10年間にした相続人に対する贈与」のため、遺留分の算定に含まれます。

【民法1043条】
【第1項】
遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産
価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
【第2項】
(省略)

 

【民法第1044条】
【第1項】
贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。
当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、
1年前の日より前にしたものについても、同様とする。
【第2項】
(省略)
【第3項】
相続人に対する贈与についての第1項の規定の適用については、
同項中「1年」とあるのは「10年」と、「価額」とあるのは
「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に
限る。)」とする。

持ち戻しの免除の失効

次に、『特別受益の持戻し免除の意思表示は、遺留分を侵害する限度で失効する』
(ZからBへの贈与640万円が遺留分を侵害しているか)について考えてみましょう。

相続財産と特別受益の合計に遺留分をかけた金額が、各相続人の遺留分になります。
では、図で各相続人の遺留分指定相続分を比較してみましょう。

上図を見てみると、ZからBへの贈与によって遺留分を侵害されているのはEだけとなります。
つまり、Eの遺留分(16分の1)を限度に、特別受益の持ち戻しの免除の意思表示が失効します。

遺留分割合を超える部分

持ち戻し免除の失効額が分かったところで、次は『遺留分侵害額請求により相続分の指定が
侵害された場合には、遺留分割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分が、
その遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正される』について考えていきましょう。

具体的相続分

A・B・C・Dが負担する金額は、360万円になるので、この金額に
それぞれの負担割合をかけて負担する金額と具体的相続分を算出できます。

以上が

  • 特別受益の持戻し免除の意思表示は、遺留分を侵害する限度で失効する
  • 遺留分侵害額請求により相続分の指定が侵害された場合には、遺留分割合を
    超える相続分を指定された相続人の指定相続分が、その遺留分割合を超える
    部分の割合に応じて修正される

の具体的な計算方法になります。

 

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